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ココ・ファーム・ワイナリー 農場長 越知 眞智子(Machiko Ochi)さん
ほどほどの貧しさが人を育てる 【前編】

おち まちこさん

知的障がいや発達障がいなどのある15歳以上の人を対象とする、栃木県足利市の障がい者支援施設「こころみ学園」施設長。施設内で園生たちが作業する「ココ・ファーム・ワイナリー」農場長。設立者である川田昇氏の次女。2010年に川田氏が亡くなる数年前から、施設長を引き継ぐ。

数々の国際会議や国際線ファーストクラスなどで用いられている「ココ・ファーム・ワイナリー」のワイン。山の南西斜面を開墾した自家畑では、北関東の気候風土ならではの葡萄が、ゆっくりと完熟するまで収穫を待ちます。その作業を担うのが、こころみ学園の150人の園生たち。川田氏の遺志を受け継いだ越知眞智子さんに、川田氏との思い出や現在の思いを聞きました。

特殊学級の教員だった
父と生徒が葡萄畑を開墾

栃木県足利市田島町の山に、葡萄畑が開墾されたのが1958年のこと。当時、中学校の特殊学校の教員だった父が、子どもたちに働く力をつけてもらおうと葡萄畑を作ったのです。

しかし、独自の方法で生徒たちを指導していると、教頭昇任の辞令が出されました。でも管理職が性に合わなかったのか三日で辞めて(笑)、その後、千葉県立袖ヶ浦福祉センターに施設長として呼ばれ、千葉に単身赴任。私が小学校高学年のころです。

でも、あることをきっかけに辞めて「こころみ学園」の設立を目指すことになります。そのあることというのが、センターに暮らす知的障がいの人たちが農家に就職するけれど、みんな途中で帰されてくる。設備のととのった施設の暮らしに慣れてしまった人たちは、農家の環境に文句ばっかり言っている。それでみんな辞めさせられてしまうんですね。

そこで父は、ほどほどの貧しさが人を育てる、何でもかんでも恵まれているのは決していいことじゃない、だから自分で施設を作ろうと。葡萄畑に、ほどほどに貧しい施設を作ったんですね。でも、実際はほどほどどころか、まともに貧しくて……(笑)。

補助金をあてにすると気持ちややる気がなえてしまうから、と補助金をもらわず私財を売ったり、千葉からいっしょに来てくれた職員に給料を払うために、町へ働きに出たりして1969年にできたのが、この「こころみ学園」なんです。

その後、こころみ学園の考え方に賛同する保護者たちの出資により「ココ・ファーム・ワイナリー」が設立されました。1980年のことです。そして1984年に醸造の認可がおりました。

私も小学生のころは、よくここに手伝いに来ていました。当時は、できた葡萄を売っていましたが、葡萄畑からとれる葡萄が2kgの箱にして1万個ぐらい。それを2週間ぐらいの間に売らなきゃいけない。それで、父にくっついて泊まり込んで葡萄を箱詰めするのを手伝っていました。

いま考えると、学校に行くよりも楽しかったし、施設にいる人たちといっしょにいるのが嫌じゃなかった。いまでも面白いことは山のようにありますが、ずっとやってこられたのは、そういう人たちが周りにいるのが当たり前だったからかもしれません。

父はとにかく何でも自分でやりたがる人

父は小さいころから、こわい存在。ひたすらこわかったですね。それでも子ども時代は母と姉、家族4人でどこかに出かけるという家族サービスらしきことはしてくれました。でも出発直前まで仕事をしていて、出かけても1泊。とんぼ帰りで戻って、また仕事へ。

それでも千葉にいるときは、1週間に1回は自宅に帰ってきていたんです。ところが足利に来てからは、ほとんど帰ってこない。近いからいつでも帰れると思って、帰らなきゃっていう気がなかったんでしょうね。たまに帰ってきても、書類か何かを取りに来ることが多かったようで、地下足袋のまま座敷に上がって「間に合わない!」「○○がないぞ!」とか怒鳴り散らして、それでバッとまたどこかへ行っちゃう(笑)。

とにかく父は、自分で何でもやりたがる人でした。あるとき鉄砲水が来て、葡萄棚が崩れたことがあったんです。当時、父は70代後半でしたが、先頭に立って全部土をどかして、もう1回立て直しました。

スパークリング・ワインを造るときには、フランスのシャンパーニュ地方に見学に行ったのですが、そこにあるようなトンネルがほしいと言いだして、帰ってすぐにトンネルを掘る機械を買っちゃって、自分で掘ろうとしたんです。危ないからやめてくれと言って、結局プロに頼みましたが、やりたいと思ったら、全部自分でやらないと気がすまない人だった。そういう父を見ていると、私にはとても、この仕事はできないと思っていました。

後編につづく >

「ココ・ファーム・ワイナリー」

https://cocowine.com/

撮影/山本彩乃 取材・文/池田純子

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