クリニックの仕事は「めちゃくちゃ面白い」
毎朝7時に起きて、兵庫にある勤務先の病院へ。1日の診療を終えた17時15分にあがり、アメリカ村のクリニックに移動。23時までは、ここで診察しています。一日じゅう患者さんと向き合う毎日を「大変ですね」と言う人も多いですが、大変と言われれば大変。でも「変わった人がいるなぁ」と受け止めると毎日が面白く思えます。
これまでの5年間をふり返ってどうか、と聞かれれば「めちゃくちゃ面白かった」としか言いようがありません。そもそも精神科の仕事って、映画を観ているような、小説を読んでいるような、そういう面白さがあるんです。

当クリニックは、ここアメリカ村で23時まで開いているということもあり、来院されるのは、ほとんどが若い人です。20代後半の人が多いですね。
そもそもこの場所に構えたのも、若い人が気軽に来られるように、と思ってのことでした。いろいろな人が見えますが、“うつ病”と診断のつく人が圧倒的に多い。これは当初から変わりません。医学的なことをいうと、うつ病の典型的な症状の一つに、朝方は調子が悪く、夕方にかけてよくなる日内変動があります。夕方になると家を出られるようになるから、ここにも来やすいわけです。それは始めてから気づきました。

完全予約制ですが、急に電話がかかってきて「目の前に薬が80錠ぐらいあるんですけれど飲んでいいですか」と言われることもあります。そういうときは基本的には「来てください」って。空いていれば予約の有無に関係なく、そのつど対応します。
眠れない、落ち込む、死にたくなる、不安でしょうがない……、症状はさまざまですが、最初の診察では、お一人1時間ぐらいはかかりますね。僕の仕事は、患者さんとどうしましょうか、っていっしょに考えるだけ。それしかできないですね。
何かをしているほうが
安心感を得られる
このスタイルをつづけてこられたのは、一番は面白いからですが、僕自身何かをしているほうが、安心感を得られるというのも大きい。自分の自信のなさや不安というのは、生を得た瞬間から無意識にあります。成長しても常にありますよね。それをただ、そのままにしておくと、沈んでいってしまうけれど、そうではなくて動くこと。たとえば人の役に立つかなと思えることをすることで、根源的な不安が軽減されるんじゃないかなと思うんです。
精神科医の観点からも、じっとしていたり、暇だったりというのは、あまり健康によくない。もちろん疲弊しきっているときは休みが必要ですが、動いて心が軽くなれば、そのほうがいい。踊りまくっている人で、落ち込んでいる人はあまりいませんから。

いまのスタイルで
つづけられるだけつづけたい
僕がクリニックを開業した動機は、料理人が自分の店を持ちたいと思うのと全く同じ。自分の好きなようにやってみたかった。僕自身、いまのスタイルは、かなり気に入っていて、つづけられるなら、ずっとつづけたいですね。周りにも、こんなふうにやりたいという人もふえていて、アドバイスを求められることもあります。そういうときは「学園祭でたこ焼きやさんをやるつもりで、気軽にやりましょう」って答えていますけれど(笑)。
とはいえ、立ち上げのときは、人手が全くなかったので、机や椅子を一つ準備するにも大変でした。最初のうちは患者さんも1日一人来るか来ないかという感じで、ずっと一人で……。
しばらくしてからは、友人がネット新聞でリリースしてくれたおかげで、クリニックのことがいろいろな人に知ってもらえるようになりました。それどころか、一時期は新聞やテレビなどメディアラッシュに。それはそれで大変でしたね。1日密着で、ずっとカメラを向けられたときは、さすがに疲れました。
いまは半常駐のスタッフが一人。あとは日替わりでいろいろな人が手伝ってくれています。カウンセラーがいるカウンセリングルームもあります。少しずつ規模を広げています。
ふり返ってみると、いろいろなことがありましたが、それでもやっぱりこの仕事は面白いですし、これからも面白いことをやりたい。それが世のため、人のためになっていれば最高ですね。
<アウルクリニックの理念>
楽しい事はやりましょう。
世のため、人の為になることはやりましょう。
人には、根源的な不安、自信のなさが、あるんですね。今まで、あってはおかしいものとして、それに、抗うように生きてきた私に、響く言葉でした。
人には、根源的な不安、自信のなさが、あるんですね。
あってはおかしいものとして、それに、抗うように生きてきた私に、響く言葉でした。